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第12話 見てほしい人がいると、少し怖くなる

last update تاريخ النشر: 2026-09-22 15:26:33

第12話 見てほしい人がいると、少し怖くなる

 午後十一時七分。

 スマートフォンの画面には、陽菜から届いた短いメッセージが表示されていた。

『記録会、ちょっと怖くなってきた』

 しばらく画面を見たまま、俺は動けなかった。

 陽菜が弱音を吐くのは珍しい。

 体臭のことで落ち込んだことはある。

 自分でも気にしすぎだと言いながら、それでも気にせずにはいられないと話したこともあった。

 でも陸上については違った。

 走ることだけは、陽菜にとって迷う必要のないものなのだと思っていた。

 速いとか遅いとか、勝つとか負けるとか、そういうこと以前に、走ることそのものを好きな人間。

 俺にはそう見えていた。

『電話する?』

 考えるより先に送った。

 既読はすぐについた。

 けれど返事は来ない。

 三十秒ほどして、スマートフォンが震えた。

 陽菜からの着信だった。

「もしもし」

『……もしもし』

 いつもの陽菜より声が小さい。

「どうした」

『今、平気?』

「電話しようって言ったの俺だろ」

『そうだけど、一応』

「平気」

『ありがと』

 少し沈黙。

 陽菜の向こうから、布が擦れるような音がする。

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